前回の記事で、発音する前段階の「舌を鍛える」を紹介いたしました。いよいよ実際の発音に入っていきます!
すべての発音の基本が、母音と言われる「あいうえお」です。
日本語は、「ん」を除いて、必ず母音のみ、または母音に子音がくっついて発音ができています。
つまり、あいうえおの口の形や舌の位置・動きをマスターすることが、滑舌の大前提となります。
しかし、このあいうえおの発音について、間違った教え方をしている、その結果誤解している方が、多々見受けられます。本記事では、その背景にも触れつつ、なるべく分かりやすく最短で上達できるように解説していきます。
多くの方が受けている誤解
多くの方が受けている誤解ーそれは、口を大きく開けなければならないと教わっていることです。
いやいや、大きく開けないと話せないじゃないか!と思ってしまいますよね。確かに全く開けないと話せません。しかし、開けすぎるのも大問題です。なぜなら、口周りや舌に余計な力が入ってしまい、かえって不自然になってしまうからです。
加えて、大きく開けると、例えば「あ」から「い」と動かすのに、舌や口角の移動が必要になる分、間に合いません。そう、話す速度に口の動きが追いつかなくなるのです。
アナウンサーのニュースなどを観察してみると、思いのほか口が開いていないのがお分かり頂けるはずです。それでもクリアに聞こえるのは、口先を開けるというよりも、口の中の空間を適切にする、それによって響きを持たせるようにしているからです。この後、その方法をたっぷりお教えします。
母音の作り方のポイント
母音の作り方のポイントは、大きく分けて3点あります。
①舌の高さ
②舌の位置(前or後ろ)
③口の形
こちらを、「あえいうお」の順に解説していきます。
なぜ「あえいうお」の順番か-「あいうえお」の順ですと口を開けたりすぼめたりと、動きが不規則だからです。
「あえいうお」は一番大きく口を開く「あ」から、「え」「い」と開き具合が徐々に小さくなります。そして今度は、「う」ですぼめた口になり、「お」でまた口の開き具合が大きくなります。(詳しくは後述)
上図でも、真ん中の「あ」を起点に、「え」「い」→「う」「お」と、時計回りに口の開き・舌の位置がずれていってますよね。
このように、口の開き具合やすぼめ方、舌の位置などを段階的にイメージしやすく、バラツキのない母音が出せるため、「あえいおう」の順で説明します。
①「あ」の発音
アナウンススクールでも、「あ」は指が2本、中には3本!入るようにと教えているところが多いようです。しかし、アナウンサーの口元を拝見しますと、せいぜい1本入るぐらいの口の開きです。
では、口の開きを控えめにすれば、きれいな「あ」になるでしょうか。そうではありません。口の開きは指1本程度でいいのですが、別の大事なポイントがあります。
それは、口の奥の空間の広さです。
口の奥を広げて「あー」と言ってみましょう。今度は逆に、その空間を狭くして「あー」と言ってみましょう。
口の奥が広がっていると、明らかに澄んだきれいな音になります。上図の中の右上、一番右の赤が濃くて太い矢印、ここを開けるイメージです。これには2つ理由があり、1つは吐いた息が何にも邪魔されずそのまま出ていくため、もう1つは口の中の空間が広い分よく響くからです。このように「あ」は口を開く分、舌の位置は母音の中で一番低い位置で、舌は後ろに引っ込みます。
しかし、舌の位置を上に上げて、口の空間を狭めてしまうと、「あ」と「え」の中間のような曖昧な音になりやすいので、要注意です。
②「え」の発音
「あ」で後ろに引っ込み、且つ低い位置にあった舌を、「え」では舌を上というより、前に突き出す意識です。
鏡の前で、「あ」→「え」と言うと、舌が口の中にのぞくようになるはずです。この動きが、「あ」と「え」をきれいに区別するコツです。
ただし、英語の「th」のように歯から舌先が出てはいけません。(そもそも日本語の発音は全てそうです。)
③「い」の発音
「い」の口は、かろうじて開ける程度です。「え」の発音から、唇をそのまま閉じていけばいいです。
この際、「い」をはっきり発音しようと、口を横に引っ張る人がいます。これは無駄な動きで、余計な力が入ってかえって滑舌が悪くなります。唇は平たい形で、ふっと開けている程度です。
この時、舌が上図の右上イラストの赤い矢印のように、舌が直角に近い形になっているのが特徴です。ただ、構造上どうしても目で見て確認することはできませんので、感覚的につかめていればここはOKとしましょう。
ちなみに、「え」と「い」は、どのような動きで言い分けているかというと、あごの動きです。下あごを触りながら、あるいは鏡を見て下さい。「えいえいえい」と繰り返した時、かくかくとあごが上下に動いていれば、「え」と「い」を言い分けている証拠です。
あごの開きを閉じる。その動きによって、舌は上あごの近くまで持ち上がります。そのような狭い空間にすることで、「い」の音をつくっています。
④「う」の発音
「う」の唇の形は、少し丸みがかっています。どれぐらいの丸みか・・・。
その前に、「わ」と発音してください。次に、「わ」と言う直前で止めてください。唇の形が少し丸くなっていることに、気づくはずです。この唇の形は、「う」の発音の準備段階にあります。明らかに、「い」のような平たい口ではありません。ただ、唇が少し丸く、ほんのりかる~くすぼめる程度です。
当然ながら、タコのように口先を前に突き出すのはご法度。これまた、かえって固くなって滑舌が悪くなります。
なお、舌の高さは高めではありますが、上図の右上イラストの赤い⇔の通り、少し空間を開けると響く音が出やすくなります。レッスンでは「口先にうずら卵を入れる感じ」とお伝えしています🥚
舌の位置は奥に引っ込みやすいのが、特徴です。舌が奥に行く「う」と前に行く「え」、「うえうえ」などと交互に発声すると、舌が勢いよく前後するのがお分かり頂けるはずです。
⑤「お」の発音
「お」は、「う」の時に閉じていたあごを開く(下に下げる)ことで発声します。
先程「えいえいえい」と発音した際、あごの動きが上下にかくかくしましたね。「おうおうおう」と発音する際も、同様にあごの動きが上下にかくかくします。
ちなみに、舌の高さは「お」と「え」はほぼ同じです。
「お」の舌の位置は、奥に引っ込みます。口の奥の空間は、やや広がる程度です。そのため、「あ」ほど開放的な音の響きになりません。
発音のポイントは口の丸みです。と言っても、「う」の口から、唇を丸めようという意識は必要ありません。あごを縦に開けることで、自然と丸みが生まれるからです。この丸みを疎かにすると、だらしない発音になるので、要注意です。
以上が、母音の正しい発音でした。
本記事の冒頭で、母音の発音に口の大きな動き・大げさな動きはいらないと説明しました。力まない。これが大事です。しかし、小さくていいから確かに動かさないと、はっきり音がとれません。
“遅”口言葉にトライ!
練習文をご用意しました。
世間一般には「早口言葉」と言われるものですが、当教室では「遅口言葉」を推奨しています。なぜなら、早くでたらめに言っても意味がないから。初めはゆっくり。確実に言えるようになってから、だんだん速くしていってください。もし、その過程でトチってしまったら、またゆっくりに戻す-その繰り返しが上達の近道です。
相生葵瓜(あいおいあおいうり)
鵜が鮎を追い合う(うがあゆをおいあう)
絵扇絵団扇(えおうぎえうちわ)
青は藍あいより出でて藍より青し(あおはあいよりいでてあいよりあおし)
我ながらマニアックと申しますか(笑)、奥が深いですよね。ここまで細かく習った事は初めてかと思います。滑舌に課題がある方よく聞き返されてしまうという方は、繰り返し練習してみてください。
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